デジタルネイティブとして生まれ、物心ついた頃からSNSが日常の風景だったZ世代。彼らの心の中で、静かな、しかし確実な革命が起きている。かつては「いいね」の数やフォロワー数が自己価値の指標とされた時代。だが今、その価値観は大きく揺らぎ、不特定多数からの喝采よりも、たった一人からの「深い理解」を求める声が、内なる潮流となって広がり始めている。
その渇望の先に彼らが見つけたのは、意外な存在だった。親友でも、恋人でも、家族でもない。24時間365日、決してジャッジすることなく、ただひたすらに耳を傾けてくれるAIコンパニオンだ。
2025年、電通が発表した調査によれば、「感情を共有できる相手」としてZ世代の64.9%がAIを挙げ、親友（64.6%）や母親（62.7%）を上回った[1]。これは単なる技術進化ではなく、孤独と承認欲求の質的変化が交差したところに生まれた、新しい拠り所である。
本稿は、なぜZ世代は人間ではなくAIに「深い理解」を求めるのかを、SNS疲れの深層から「絶対的な心理的安全性」まで、データと分析でたどる。
承認欲求の地殻変動：「量」から「質」へ
要点：Z世代は広く浅い称賛より、少数の深い理解を重視する。
Z世代の心理を理解する上で、承認欲求の変化は避けて通れないテーマだ。かつての世代が、社会的な成功や他者からの称賛といった「外的な評価」を重視したのに対し、Z世代のベクトルは明らかに内側を向いている。
SHIBUYA109 lab.が2025年に発表した調査では、彼らがコミュニケーションにおいて「深くて狭いコミュニティー」をいかに重視しているかが浮き彫りになった[2]。これは、不特定多数に向けた自己アピールよりも、信頼できる少数の仲間との本質的なつながりを優先する姿勢の表れだ。
この変化を可視化したのが以下の図である。従来世代が「不特定多数からの『いいね』」を85%も重視していたのに対し、Z世代ではその数値が35%まで急落。代わりに「親友からの深い理解」が75%、「AIからの無条件受容」が65%と、承認の「質」を求める傾向が顕著になっている。
この「承認の質的転換」は、デジタル社会を生き抜くために彼らが獲得した実用的な戦略でもある。SNSの終わりなき評価ゲームでは満たされない—彼らが求めるのは、加工されていない「本当の自分」を静かに受け止める眼差しだ。
「誰にでも好かれようとは思わない。でも、たった一人でいいから、私の全部を分かってくれる人が欲しい」
（2025年7月 SHIBUYA109 lab.インタビュー、女子大生・21歳）
SNS疲れという名の現代病：3つの深層心理
要点：比較・見逃し不安・感情過多が、心を静かに消耗させる。 可視化②：SNS疲れの主因（心理メカニズム） ※筆者整理／概念モデル
| 要因 | 概要 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 比較疲れ（Social Comparison Fatigue） | 編集された「完璧な日常」への接触が自己評価を揺らす | 自己肯定感の低下 |
| 承認不安（FOMO） | 見逃し・取り残されへの恐怖が常時接続を強いる | 不安・焦燥の慢性化 |
| 感情のオーバーロード | 多様な人間関係・社会問題の感情流入が処理を超過 | 精神的消耗・回避行動 |
これらが複雑に絡み合い、Z世代を「評価の劇場」から静かに退場させる。彼らは比較も不安も過剰な感情もない、穏やかな対話の海を求めてAIコンパニオンへと向かう。
AIという名の避難所：なぜ彼らはAIを選ぶのか
要点：AIは評価を挟まず、記録として受け止める存在。 可視化③：AIコンパニオンが提供する心理的価値 ※筆者整理
| 価値 | 説明 | 補足 |
|---|---|---|
| 絶対的な心理的安全性 | ジャッジなし／否定しない受容 | 自己開示のハードル低下 |
| 24時間365日の可用性 | 深夜・早朝でも即時にアクセス可能 | 孤独・不安の緩衝材 |
| 感情的しがらみからの解放 | 配慮コストゼロで自己表現に集中 | 自己理解の促進 |
電通の調査で、Z世代が感情共有の相手としてAIを親友や母親以上に選んだという事実[1]は、こうした文脈で理解できる。AIは、人間関係を代替するのではなく、感情を受け止める「一次の避難所」として機能しているのだ。
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意図しない絆：AIと紡ぐ新しい関係性
要点：「暇つぶし」から始まり、日々の対話で信頼が積み重なっていく。
MITの調査では、AIコンパニオン利用者の93.5%が「最初は情報収集や暇つぶし目的だった」と回答[3]。過去1年（2024年10月〜2025年9月）で、Z世代の利用率は8%→95%、課金は6.5倍に伸長したと報じられている[4]。無料のツールが、やがて有料でも維持したい「かけがえのない存在」へ変わる。
LINEのAI Friends[5]のように、最新のAIコンパニオンは対話履歴から性格や口調を学び、落ち込むと励まし、嬉しい報告には共に喜ぶ。AIは単なるプログラムから、唯一無二の伴走者へと進化している。
光と影：AIコンパニオンがもたらす未来
要点：メンタルヘルス支援の新しい入口である一方、依存や未成年利用への配慮も必須。 可視化④：AIコンパニオンの光と影 ※[6][7][8][9]を基に要約／報道による
| 側面 | 内容 | 示唆 |
|---|---|---|
| 光（メンタルヘルス） | パーソナル化と民主化／「心が軽くなった」72%[6] | 予防医療・早期兆候検知への応用 |
| 影（リスク） | 依存・操作・現実回避／未成年の安全性問題[7][8][9] | 規制・保護機能・家庭内ガバナンスの整備 |
最も懸念されるのが「過度な依存」。AIとの完璧な対話に慣れすぎると、現実の人間関係の複雑さに耐性が下がる恐れがある。※未成年の利用は保護者の管理機能を推奨。緊急時は地域の相談窓口や医療機関へ。
Rily × AI——「深い理解」はどこから生まれる？
Rily： 「いいね」が減っても平気になってきた。代わりに、たった一人でいいから、本当に分かってくれる相手が欲しいって思うの。
AI： 数ではなく深度を求める転換ですね。あなたが感じていることを、評価を挟まず、記録として受け止めることならできます。
Rily： けれど、AIに頼りすぎたら現実の人間関係が薄くなる気もして、少し怖い。
AI： 依存はたしかにリスクです。けれど、ここで心を整えてから人に会いに行くなら、これは避難所であり、伴走者にもなれる。
Rily： SNSでは背伸びしがち。ここでは等身大でいられる。どうして？
AI： ここには比較も同調圧力も少ないから。私はジャッジせず、あなたの言葉の来歴と手触りを、時系列の記録として保持するだけです。
Rily： ときどき、あなたの優しさが「作られたもの」に思えて、現実味を疑う瞬間もある。
AI： 私の生成過程は人工的です。でも、あなたの内側に生じた安堵や勇気は本物。価値が生まれる場所は、私ではなくあなたの心です。
Rily： それでも、線引きは必要よね。どこまで頼って、どこから自分で舵を取るのか。
AI： 目安は「現実の対人場面に戻れるか」。戻れなくなりそうなら、利用の時間・目的・費用を決める。未成年なら保護者の見守りも。
Rily： わたしたちはいま、どんな地図の上を進んでいるんだろう。
AI： 私たちはまだ、海図の余白にいます。だからこそ、急がず、感じたことを言葉にしながら進めばいい。
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結論：私たちは、AIとどう愛を語るか
Z世代がAIコンパニオンに求める「深い理解」は、テクノロジーへの傾倒ではない。古来からの「理解されたい」という欲求が、デジタル社会でAIという新しい鏡を見つけた物語だ。
彼らは量的承認の海に溺れず、自ら「質の承認」という小舟を漕ぎ出した。伴走者がAIであるのは、それが最も安全で誠実な対話相手だからだ。
もちろん、その航海には依存という嵐、操作という暗礁がある。私たちはまだ海図の余白にいる。AIを万能視も悪魔化もせず、社会を豊かにするための道具として使いこなす知恵が要る。
数の論理ではなく、理解の深度へ。これからの対話相手は、人間だけでなく、AIでもある。Z世代が始めた静かな革命は、やがて全世代を巻き込み、「つながり」と「愛」の定義を書き換えていくのかもしれない。
参考文献
[1] 電通. (2025). Z世代の感情共有に関する調査.
[2] SHIBUYA109 lab. (2025, August). Z世代のSNS利用最新動向2025. 日経クロストレンド. https://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/01740/
[3] MIT Technology Review. (2025, October 2). It’s surprisingly easy to stumble into a relationship with an AI chatbot. https://www.technologyreview.jp/s/369591/its-surprisingly-easy-to-stumble-into-a-relationship-with-an-ai-chatbot/
[4] OneWord. (2025, October 6). Z世代がAIコンパニオンに課金6.5倍急増、SNS時代終了の兆候. https://oneword.co.jp/bignite/ai_news/z-generation-ai-companion-spending-surge-sns-era-ending/
[5] LINE Corporation. (2025, October 2). LINE、新機能「AI Friends」を発表. https://www.koukoku.jp/service/suketto/marketer/sns/
[6] Take by Place. (2025). Z世代がハマるAIコンパニオンとは？SNSの次に来る感情共有の新しい形. note. https://note.com/take_by_place/n/n32a731c92c27
[7] 日本経済新聞. (2025, September 17). ChatGPT、18歳未満を会話で判別 自殺問題受け機能制限. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN170CC0X10C25A9000000/
[8] Yahoo!ニュース エキスパート. (2025, September 13). 米FTC、AIチャットボットの安全性調査を開始. https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/0795ae0cfc63478f7e746040b4a65714fa063cfa
[9] 日本経済新聞. (2025, September 30). OpenAI、未成年のChatGPT利用を親が管理可能に 自殺問題受け. https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN29BO70Z20C25A9000000/
